独自の視点で読み解く

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独自の視点で読み解く⑬

江田島に「村」をつくる
~鮮魚店に自転車、カフェにサロン、5人の創業物語~
「Kirikushi Coastal Village」

広島(宇品)港からフェリーで30分。江田島市切串の港近くに2022年8月、空き家を古民家風に再生した複合施設「Kirikushi Coastal Village(切串沿岸の村という意味)」がオープンしました。人が減り高齢化も進む島で増え続ける空き家を「飲食店や人が集まる、にぎわいの場所へと生まれ変わらせたい」という思いから始まったプロジェクト。

「Kirikushi Coastal Village」内観

発起人は江田島市地域おこし協力隊の蛇草孝介(はぐさ・こうすけ)さんです。自ら率先して改修工事に汗を流し、地域の方々とも交流を深める中で、その思いに共感する仲間が1人、また1人と増えていく。今では鮮魚店やカフェなどのテナントが入居し、宿泊部屋も併設する江田島のハブスポットとして注目を集めています。

「Kirikushi Coastal Village」外観 「Kirikushi Coastal Village」を訪れた中島尚樹さん・井上恵津子さんご夫妻

インタビュアーは、広島ローカルタレントとして活動されている中島尚樹さん・井上恵津子さんご夫妻。居合わせた地元のお年寄りや子どもたちから声をかけられながら、各テナントをぶらぶらお散歩。おいしいランチを頂いたあとは、蛇草さんやテナントの皆さんが集まって、創業までの経緯やこの場所の魅力、仲間との関係性などを語り合いました。

まずはこちらの動画からご覧ください。

Kirikushi Coastal Village
https://kirikushi-coastal-village.studio.site/

風光明媚な瀬戸内の景色と、どこか落ち着く古民家が、スタートアップの吸引力。

「Kirikushi Coastal Village」を訪れた中島尚樹さん・井上恵津子さんご夫妻 「Kirikushi Coastal Village」内観 「Kirikushi Coastal Village」内観
  • 中島さん すごくおしゃれな空間ですね。蛇草さんが切り盛りされているのですか?
  • 蛇草さん はい。オーナーは私ですが、1階にはカフェと鮮魚、2階にはまつ毛サロンがテナントとして入居されています。地域おこし協力隊として市役所に勤務する傍ら、活動の一環としてここを立ち上げました。小さい頃は広島市に住んでいて、就職してからは東京で暮らしていたのですが、2年半前、地域おこし協力隊として江田島市にやって来ました。
  • 中島さん うわー、いい。僕もここでお店やりたい。仲間入りしたい! そんな人がいらっしゃったら、店舗向けにリフォームしてもらえるのですか?
  • 蛇草さん 私はもともと店舗のデザイナーをしていたので、テナントさんと一緒にDIYしちゃいますね。
  • 中島さん イチから創業しようと思ったら大変だけど、それは心強いですね。
  • 蛇草さん スタートアップが事業を始めるときのハードルを低くしたいので、テナント料は基本25,000円~です。
  • 中島さん うわ、激安! やろうよ。井上さん、何かやろうよ。
  • 蛇草さん ぜひ。ちなみに宿もやっています。地域の人にここを使ってもらうのも大切ですが、それだけでは運営が難しい。そこで、地域外の人の利用を増やすために宿を始めたのですが、これが思った以上に伸びていて。広島市内の人はもちろんですが、関東など遠くからのお客さまも多く、そのうち3割は外国人です。なのでこれから、もう一部屋増やす予定です。
「Kirikushi Coastal Village」宿泊施設
「Kirikushi Coastal Village」宿泊施設
「Kirikushi Coastal Village」宿泊施設
「Kirikushi Coastal Village」宿泊施設
  • 井上さん 昔の木造住宅の良さが感じられながらも、水回りがきれいに改装されているのもいいですね。おしゃれなファンが回っていてテンション上がります。1泊おいくらですか?
  • 蛇草さん 4,500円~です。島暮らしを体験してみるのにもおすすめで、バーベキューやたき火もできますよ。私自身、広島市に住んでいながら、江田島には一度も来たことがありませんでした。瀬戸内海ってそんなにきれいなイメージがなかったんですよね。でも東京から江田島へ戻って来ると、海がとてもきれいで、原風景がこんなに残っていることに驚きました。立ち寄って遊べる場所として、ここをもっと使ってもらいたいです。

コロナ禍を機にとんとん拍子で移住。
今後は東京との2拠点生活も視野に。

  • 中島さん 蛇草さんはなぜ、地域おこし協力隊に入られたのですか?
  • 蛇草さん コロナ禍を機にリモートワークが増え、働く場所の制約が少なくなったタイミングで「東京からよそへ移住したい」と思いはじめました。福岡や宮崎など、最初は九州方面がいいなと思って移住相談に出掛けたら「予約がないと入れない」と断られ……帰ろうとしたその時、広島の担当者さんから「相談空いていますよ」と誘われたのがきっかけでした。
  • 井上さん 本当に偶然? そこからつながっていったのですね。
「Kirikushi Coastal Village」オーナー蛇草さん
  • 蛇草さん 広島は以前住んでいたので、東京と暮らし方が変わらないイメージがあって、「別の暮らし方を求めています」と答えたら、「島は面白いですよ!」と提案されて、そこで初めて江田島を訪れました。その後とんとん拍子で話が進んで、半年後には移住していた感じです。
  • 中島さん そんなに早く話が進んで、怖くなかったですか?
  • 蛇草さん もともと40歳で移住しようと思っていて、その時は37歳でしたが、実際に訪れて、島の良さを知り、ここで生活がしたいと妻を説得しました。
  • 井上さん よく「うん」と言ってくれましたね。
  • 蛇草さん 仕事は変わるし、給料は下がるし、色々と大変でした。妻も移住のタイミングで転職をし、ウェブディレクターとしてフルリモートで働いています。
  • 中島さん ここがオープンしたのはいつですか?
  • 蛇草さん 2021年4月から地域おこし協力隊として動き、半年後の10月にオープンしました。こんなことが自分にできるかなと思いながら、とにかくやってみたという感じです。最初はうまくいかなかったこともたくさんありますが、いろんなプレーヤーというかテナントさんが入ってきてくれて、それぞれのお客さんとの相乗効果で盛り上がっていく。その仕組みはすごく良かったですね。あっという間の3年で、協力隊の任期も令和6年3月までになりました。
  • 中島さん 島を離れるのですか?
  • 蛇草さん 地域全体の空き家をうまく使えるようにしたいとか、まだまだやりたいことがあるので取り組みは継続していきたいです。逆にこの3年間は元々の仕事であるデザイナー業をあまりやってこなかったので、東京に行くとギャップを感じそうですね。東京と江田島を行き来しながら、バランスよくやっていきたいです。

こだわりの強いテナントメンバー。
前職の経験をもとに新天地で創業!

「Kirikushi Coastal Village」テナントメンバー
  • 中島さん テナントの皆さんにお話を聞きましょう。まずは魚商かぐらの川上さん。
  • 川上さん 蛇草さんと一緒にDIYしてつくった店です。調理場は以前、お風呂でした。
  • 中島さん 魚はどこで仕入れているのですか?
魚商かぐらの川上さん
「Kirikushi Coastal Village」魚商かぐら
魚商かぐら「かぐら丼」
  • 川上さん うちの魚は全部、江田島産を使っています。僕はこだわりが強くて、生きた魚の様子が分からないと出さないんです。漁師さんのところへ行って、海の状態や捕まえた時の様子などを聞いてから魚を買います。魚は一番おいしいタイミングで食べてもらいたいので、看板メニューの「かぐら丼」は、魚を1週間は寝かせてしっかり熟成させてから提供しています。
  • 中島さん すごいこだわりですね。次はBeauty Studio AReeyの赤星さん。
  • 赤星さん 私はまつ毛と眉毛のサロンをしています。もともと東京の恵比寿や六本木、池袋などで15年間ぐらいやっていました。
Beauty Studio AReeyの赤星さん
「Kirikushi Coastal Village」Beauty Studio AReey
Beauty Studio AReey内観
  • 中島さん なぜ、江田島に?
  • 赤星さん うちの夫が広島の人なので、夏休みなどに帰省を兼ねて広島旅行をしていました。尾道の多島美に私がすごく魅了されて、老後は瀬戸内海の島に住みたいと思っていました。コロナ禍で美容業も休業要請が出て暇だったので、移住サポートセンターに話を聞きに行ったのがきっかけです。尾道と江田島の両方にお試し移住してみたのですが、江田島の方が仕事的にも良かったので、1年後に移住しました。
  • 井上さん 気が付いたら移住?
  • 赤星さん 蛇草さんとは、同じ移住サポートセンターの紹介で、移住したタイミングも2週間違い。最初は同じ町に住んでいたので結構交流があって、「ここやらない?」と言われて「いいじゃない」という感じで始めました。
  • 中島さん 広島の移住サポートセンターの人、優秀ですね! では、自転車屋の奥村さん。
  • 奥村さん 私はもともと広島市南区丹那町で自転車屋をやっていて、江田島のお客さんが「島に自転車屋がないから」と、海を渡って修理に来られていたのです。「月に何回か出張修理で回ろうかな」と江田島の友達と話をしていたところに、蛇草さんを紹介されました。
自転車屋の奥村さん
「Kirikushi Coastal Village」自転車屋
「Kirikushi Coastal Village」自転車屋
  • 中島さん 願いがかなった感じですね。
  • 奥村さん 家庭の事情で、今は南区の店舗を閉めて呉の実家でお店をやっているので、ここはまだ作業場という感じです。自分の生活を続けながら、車で出張修理をする拠点ですね。ちょっと関わり方は特殊かもしれませんが。
  • 蛇草さん みんなそれぞれキャラクターにクセがあり、関わり方は違います。でも、それでいいと思います。
  • 奥村さん 宿泊が始まったので、レンタサイクルもやろうかなと思っています。
  • 井上さん 島を楽しむには自転車があった方がいいですね。では、NOKAZUKI COFFEEの髙橋さん。
  • 髙橋さん 京都から仕事で広島に来て、もう16年ぐらい広島に住んでいます。長女が小学校へ入学するのを機に、江田島へ引っ越してきて4年です。自然が多い所で子どもを育てたいと考えていたのですが、以前の職場の人から「島はいいよ」という話を聞き、今住んでいる場所を見に来て即決しました。
NOKAZUKI COFFEEの髙橋さん
「Kirikushi Coastal Village」NOKAZUKI COFFEE
コーヒーを淹れる髙橋さん
  • 中島さん 決断力、やばいですね。
  • 髙橋さん マリンスポーツは好きじゃなかったのですが、たまたまSUPを始め、インストラクターになり、SUPの倉庫だったここに出入りしている時に、「ここで飲食できる人いないかな」という話があって店を始めることになりました。
  • 中島さん SUPが先なんですか? 飲食の経験はあったのですか?
  • 髙橋さん SUPが先です。SUPコーヒーです。ただ以前、京都でコーヒーの仕事をしていましたので知識はありました。
  • 川上さん どんどんつながっていくんですね。

厳しい局面もあるけど夢を掲げて邁進。
仕事とプライベートのバランスを大切に。

  • 中島さん 皆さんすごく生き生きとしていらっしゃいますが、収入はいかがですか? 理想と現実を教えてもらいたいです。
  • 川上さん 初期投資を今、取り返している最中です。事業計画の目標数字は達成できるようがんばっています。もちろん、前職サラリーマン時代の方が収入はいいのですが、こっちではあまりお金を使うことがないので。飲みに行くところがあまりなく、自宅で飲むぐらいなので、日々のお金はそこまで大変ではないですね。
  • 髙橋さん お金は劇的に厳しく、蓄えを切り崩して生活していますよ。でも以前は、仕事のストレスがあったし、帰宅してからも子どもと遊べなかった。今は子どもとの時間を持てますし、人生ずいぶん豊かですね。そもそもあまりお金に執着がないタイプなので、お金はないけど幸せです。ただ子どもが小学生のうちはいいですが、将来的にはもうちょっと考えないといけないなとは思いますね。
  • 赤星さん 私は客単価がある程度高いので、以前より収入はあります。1日何人ぐらいという目標値を達成していけば、結構な収入になりますが、ここに来た意味も大事にしたいです。仕事中心になったのでは何の意味もないので、仕事と遊びのバランスを考えていきたいですね。
「Kirikushi Coastal Village」メンバーから話を聞く中島尚樹さん・井上恵津子さん
  • 奥村さん 一番大変なのはガソリン代です。出張修理だけでやっていくなら、修理代に燃料費を上乗せないといけない。レンタルサイクルやバーベキューなどを上手に組み合わせたら、月に決まった額が入ってくるようになるので、ある程度の固定費さえ回収できればいいという感じでやっていきます。
  • 中島さん 私も皆さんのお仲間になりたい。そんな魅力がここにはあります。これからどんどん大きくしていこうというお考えですか。
  • 蛇草さん 地域を面白くする人たちが集まってきて、いろんなことにチャレンジできる場所になったら、めちゃくちゃ楽しいですよね。
「Kirikushi Coastal Village」蛇草さん
  • 井上さん みんなで集まっているからこそ心強かったり、いろんなイベントができたりするんですね。みんなでやることのメリット、デメリットがあれば聞かせてください。
  • 川上さん 寂しくないのが一番大きいメリットですね。以前、お客さんが来なくて暇だった時、一人では心細くて結構つらかったです。でも、赤星さんや髙橋さんがジョインしてくれて、暇な時には試作品を二人に食べてもらって評価を聞くなど、可能性を見いだす時間に充てられています。デメリットとしたら、他の店が休みの時がちょっと心配ですね。カフェがお休みだと、うちが飲み物までフォローしなければいけないし、カフェが目的のお客さんはがっかりされるのです。
  • 中島さん ショッピングモールみたいに全店同じ日に開店するのではなく、開店日を自由にしているから、デメリットもありますよね。
  • 髙橋さん 僕は、デメリットはあまり感じていませんが、一人だとさぼりがちなので、他の人にいていただいた方がいいですね。
魚商かぐらとNOKAZUKI COFFEEの立看板
「Kirikushi Coastal Village」入口

年齢も目標も違うけど、遊び心を共有。
少しずつ仲間を増やしたい!

  • 中島さん 最後に、この場所をどう盛り上げていきたいですか。
  • 赤星さん 私は、若い人へのサービスだと思われがちな美容を、一生を通じて楽しめるものだと伝えていきたいです。例えば、年配の方の眉毛を整えるだけでも印象ががらりと変わって、優しい表情をつくることができます。そういうイベントをここでもできたらいいですね。
  • 川上さん 僕は地魚にこだわっているので、瀬戸内海の魚のおいしさを伝えたい。今はここが拠点になっているけど、この先は広島市や別の場所でも、さらに海外でも広げていきたいです。
  • 髙橋さん ここを始めた時、移住者ばかりが携わっていたので、逆に地元の人が入りにくい雰囲気がありました。でもカフェだったら年齢問わず入りやすいと思い、まずは地元の人が来てくれるようになればと店を始めたのですが、徐々に想定どおりになってきています。ただ、生活をしないといけないので、地域外からもたくさん人が来て、地域の人もゆっくり過ごせる、そんな場所にしたいです。子どもが3人いるので、学校が廃校にならないように移住者もどんどん増えてほしいですね。
  • 奥村さん 自転車修理はもちろんですが、江田島にサイクリングに来る方が楽しく遊べる場所にできればいいですね。今まで自転車屋としてソフト面に重きを置いていなかったのですが、ここは環境的に恵まれているので「走って楽しめる」ことを重視したいです。
  • 蛇草さん 今の段階では、自分の思いがカタチになって良かったなという感じです。引き続き、遊びの延長線上でつなげていったら、ますます面白くなると思います。賛同する仲間がどんどん増えたらいいですね。年齢層もバラバラで世代も全然違うけど、フラットで冗談ばかり言えるような関係性は楽しいですよ。
  • 川上さん 大きくしたいだけではなく、楽しくしたいということですね。
「Kirikushi Coastal Village」メンバーから話を聞く中島尚樹さん・井上恵津子さん
  • 蛇草さん めちゃくちゃ広げたいというよりは、ちょっとずつ領域を増やしていきたい。今はSUPやサイクリングですが、ドローンも面白そうだねとか、自分たちが興味のある分野で、これを組み込んだらプラスになるんじゃないかと話しながらやっています。
  • 中島さん すごい。僕も皆さんのプラスになることを考えますので、ぜひ仲間に入れてください。これからも楽しい場所を目指してがんばってください。今日はありがとうございました。
「Kirikushi Coastal Village」メンバーと中島尚樹さん・井上恵津子さん



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